経口補水液について調べてみた
はじめに
コレラ等の重度の下痢症状を示す患者に対して経口補水療法が有効であることが1960年代から報告され、途上国を中心に経口補水液が利用されてきましたが、先進国ではあまり利用されることがなく、日本でも普及が遅れていました。今日では、小児の脱水症状としてWHOが経口補水療法を推奨するなど、先進国でも広く利用されています。日本においても、個別評価型病者用食品であるOS-1を始めとした経口補水液が普及しています。
経口補水液とは
経口補水液は、簡単に言えば、食塩とブドウ糖を混合し、水に溶かしたものです。ヒトが摂取した水分のほとんどは小腸において吸収されます。小腸壁にはナトリウム・グルコース共役輸送体(SGLT1)があり、SGLT1の働きによりナトリウムイオン、ぶどう糖(グルコース)および水が吸収されます。つまり、SGLT1を介した水分吸収には、ナトリウムおよびブドウ糖が1:1の割合であることが効果的といえます。
また、ナトリウムや水の効率的な吸収には、経口補水液の浸透圧が血液よりも低いことが望ましいことが明らかにされており、経口補水液の浸透圧は正常な体液の浸透圧(約285mOsm/kg)より低いことが望まれます。さらに、脱水時には水とともに電解質(Na、K、Cl等)が失われることから、市販の経口補水液には、これらの電解質も補給できるよう、成分に含まれています。
経口補水液とは
市販の経口補水液、スポーツドリンクおよび清涼飲料水の成分を比較した結果が下表です。WHO-ORSとは、WHOが推奨する組成ですが、当初の組成(1975年)はコレラの下痢によりナトリウムが多く失われることを想定したものですが、この基準を先進国に当てはめるとナトリウム量が多く、高ナトリウム血症を誘発する恐れがあるため、基準が見直されました。また、下痢や脱水による代謝性アシドーシスの是正を目的としてクエン酸塩が加えられています(Oral rehydration salts-WHO)。
Na+ (mEq/L) |
K+ (mEq/L) |
Cl- (mEq/L) |
炭水化物(糖類) (g/dL) |
クエン酸塩 (mEq/L) |
浸透圧 (mOsm/L) |
|
---|---|---|---|---|---|---|
WHO-ORS (2002) | 75 | 20 | 65 | 1.35 | 10 | 245 |
WHO-ORS (1975) | 90 | 20 | 80 | 2.0 | — | 311 |
OS-1 | 50 | 20 | 50 | 2.5 | 270 | |
アクアライトORS | 35 | 20 | 30 | 3.5 | 200 | |
アクアソリタ | 35 | 20 | 33 | 1.8 | 175 | |
アクアサポート | 40 | 20 | 50 | 2.3 | 48 | 252 |
ポカリスエット | 21 | 5 | 16.5 | 6.2 | 10 | 324 |
スポーツドリンク一般 | 9~23 | 3~5 | 5~18 | 6~10 | ||
コカコーラ | 1.6 | — | — | 11.2 | 650 |
図:オーエスワンの使用について(大塚製薬)、経口補水療法(谷口英喜 著 – 2015)および各社製品情報を参考に改変・作成(クエン酸塩の含有量については調査不十分もあり空欄が多くなっています)
熱中症対策に何を飲んだらよいのか
熱中症とは、高温多湿な環境下で生じる身体適応障害のことであり、脱水により体内の水・電解質バランスが崩れ、体温上昇、めまい、頭痛などの諸症状を引き起こします。重度になると多臓器不全を生じることがあるため、医療機関で輸液等の治療が必要となることがあります。
熱中症の予防として、熱中症診療ガイドラインは経口補水液について「通常の水分・電解質補給であれば市販のスポーツドリンクで十分であるが、生来健康な成人でも下痢や嘔吐、発熱、発汗、経口摂取不足でいわゆる夏バテを感じたときに飲むことで熱中症の予防になる」としています。
また、厚生労働省は、「暑さを避ける」ことに加え、「こまめに水分を補給する」こととして、「室内でも、外出時でも、のどの渇きを感じなくても、こまめに水分・塩分、経口補水液などを補給する」ことを呼びかけています。
なお、経口補水液を含む市販の飲料摂取において、いくつか注意しておくべきことがありますので、下に箇条書きしておきます。
・ 脱水状態が回復した後は、高ナトリウム血症を避けるため、ナトリウム濃度がより低い飲料を摂取すべきである。
・ 既に嘔吐してしまった場合でも、経口補水液の摂取を断念すべきではない。
・ 子どもの熱中症対策には、OS-1よりもナトリウム濃度が低くて、OS-1よりも糖分が多くて甘い(ショ糖が使われてます)アクアライトOSRの方が適するかも。
・ スポーツドリンクを乳幼児の下痢による脱水症状緩和を目的として用いた場合、はナトリウム濃度が低いため低ナトリウム血症を起こす場合がある。
・ 暑いからとスポーツドリンクを毎日多く飲み続けると「ペットボトル症候群」を生じる恐れがある。
・ ペットボトル症候群:清涼飲料水などを大量に飲み続けることによっておこる急性の糖尿病。糖分を多く含むスポーツドリンクや清涼飲料水を繰り返し大量に摂取すると高血糖を引き起こし、高血糖により喉の渇きを生じ、のどの渇きを癒そうとさらに摂取して高血糖状態が続くと膵β細胞が疲弊し、インスリン分泌不全を生じる。
いままでみてきた飲料の他の飲料について
この時期、Newからだ浸透補水液や熱中対策水等の商品も目にします。Newからだ浸透補水液はハイポトニック飲料です。ハイポトニック飲料とは、アイソトニック飲料(例:ポカリスエット、アクエリアス等)と比べて糖分濃度が低い飲料であり、アイソトニック飲料と比べて速やかに水分を吸収できることから「運動時」に適した飲み物とされます。Newからだ浸透補水液の公式ページに、特徴として「発汗時に体内に吸収されやすいハイポトニック飲料です。水分を早く体内に摂取できます」と説明があります。
熱中対策水ですが、厚労省の「熱中症対策」表示ガイドライン(2016年6月9日改訂)に、「ナトリウム濃度として、少なくとも、飲料100ml あたり40~80mg(食塩相当量として0.1~0.2g)含有する清涼飲料水は、「熱中症対策」の用語を使用することができる」と定められていることから、この基準を見なすものだと思われます。(今回、調査していません)
さいごに
以上、A4サイズに治まる程度での「経口補水液について調べてみた」でした。
あくまでも個人勉強のメモという理解でお願いします。
実際に商品を選ぶ際には、薬剤師または登録販売者に相談・確認し、その上で摂取ください。
A4版は下のリンクから。PDFファイルが開きます。
経口補水液について調べてみた