脂質異常症のくすりについて調べてみた
脂質異常症とは
脂質異常症とは、血液中のLDLコレステロール(LDL-C)やトリグリセライド(中性脂肪:TG)が増加し、HDL-コレステロール(HDL-C)が減少した状態をいいます。LDL-Cは、血管壁にアテロームを形成して動脈硬化症の原因となることが知られており、この状態が続くと動脈硬化が進み、動脈硬化性疾患である冠動脈疾患や脳血管障害を引き起こします。
冠動脈疾患および脳血管障害を合わせると日本人死亡原因の3割近くにもなります。動脈硬化の発症、進展は多様な危険因子の重なりによって引き起こされますが、最も重要な因子の一つとして脂質異常症があります。このため、動脈硬化性疾患の予防を目的とした脂質異常症の管理基準や治療法の指針が作成されています。
脂質異常症の診断基準と脂質値の管理目標
下は脂質異常症のスクリーニングのための診断基準です(治療開始のための基準ではない)。境界域高LDLコレステロール血症は、他の動脈硬化性疾患の高リスク病態がないか検討の上、治療の必要性を考慮するために基準が設定されています。
LDL-C | 140mg/dL以上 | 高LDLコレステロール血症 |
120~139mg/dL | 境界域高LDLコレステロール血症 | |
HDL-C | 40mg/dL未満 | 低HDLコレステロール血症 |
TG | 150mg/dL以上 | 高トリグリセライド血症 |
続いて、冠動脈疾患の既往、高リスク病態、性別、年齢、危険因子の数と程度に応じてリスク評価を行います。(紙面の都合上、割愛します。リスク評価は専門サイトを参照ください)
リスク評価で判定されるカテゴリー区分により、脂質値の管理目標値が定められています。なお、この脂質管理目標値はあくまでも到達努力目標であり、LDL-Cは20~30%低下することが目標となっています。
治療方針の原則 | 管理区分 | 脂質管理目標値(mg/dL) | |||
---|---|---|---|---|---|
LDL-C | HDL-C | TG | Non HDL-C | ||
一次予防 | カテゴリーⅠ | < 160 | ≧ 40 | < 150 | < 190 |
カテゴリーⅡ | < 140 | < 170 | |||
カテゴリーⅢ | < 120 | < 150 | |||
二次予防 | 冠動脈疾患の既往 | < 100 | < 130 |
脂質異常症の治療
生活習慣の改善
脂質異常症の治療にはスタチンなどの薬物療法が主流ですが、まず第一に食事療法、運動療法を含めた生活習慣の改善が必要です。
薬物療法
下表は、脂質異常症の治療に用いられる薬剤です。(脂質異常症治療のエッセンスー日本動脈硬化学会2014年を一部改変)
分類 | 特性 | 薬剤の例(カッコ内は一般名) | ||
---|---|---|---|---|
LDL-C Non-HDL-C |
TG | HDL-C | ||
スタチン | ↓↓↓ | ↓ | ↑ | リピトール(アトルバスタチン) |
陰イオン交換樹脂 | ↓↓ | ↑ | ↑ | クエストラン(コレスチラミン) |
小腸コレステロール トランスポーター阻害薬 |
↓↓ | ↓ | ↑ | ゼチーア(エゼチミブ) |
フィブラート | ↓ | ↓↓↓ | ↑↑ | ビノグラック(クロフィブラート) |
ニコチン酸誘導体 | ↓ | ↓↓ | ↑ | ユベラN(トコフェロール) |
プロブコール | ↓ | ― | ↓↓ | シンレスタール(プロブコール) |
多価不飽和脂肪酸(EPA) | ― | ↓ | ― | エバデール(イコサペント酸エチル) |
↓↓↓:≦ – 25% ↓↓:- 20 ~ – 25% ↓:- 10 ~ – 20% ↑↑:20 ~ 30% ↑:10 ~20% ー:-10 ~10%
実際に動脈硬化性疾患を予防できるのか
LDL-C低下療法であるスタチンを服用することにより、冠動脈疾患の既往のある患者の心血管死が約30%減少したこと、一次予防でも脳卒中や総死亡が有意に減少したことが示されています。
LDL-Cを強力に低下させるPSCK9阻害薬(エボロクマブ、アリロクマブ)が心血管イベントのリスクを低下した臨床試験結果が昨年NEJM誌に発表されました。なお、両剤とも、家族性高コレステロール血症および高コレステロール血症(ただし、心血管イベントの発現リスクが高く、スタチンで効果不十分な場合に限る)の効能効果で昨年承認されています。
スタチンについて知っておきたいこと(一部)
スタチンの投与によってみられる主な副作用は、腹痛、発疹、倦怠感等ですが、重篤な副作用として横紋筋融解症、ミオパシーや肝機能障害等があります。このうち、黄紋筋融解症とは、横紋筋細胞が融解し細胞成分が血中に流出する状態をいいます。重症になると、腎不全などを発症し、死に至る場合もあります。筋肉痛やコーラ色の尿が出たら早めに主治医に相談を。
スタチンが糖尿病を悪化させることがあるとして、糖尿病患者へは慎重投与となっています。しかしながら、メタアナリシスの結果、スタチンの4年間投与により糖尿病が1人に発症するのに対して、5.4人の心血管イベントを抑制することが示されており、スタチン投与の判断は糖尿病発症と心血管イベント抑制のリスクベネフィットを考慮することが勧められます。
さいごに
以上、A4サイズに治まる程度での脂質異常症のくすりの勉強まとめでした。
A4版は下のリンクから。PDFファイルが開きます。
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