くすり&健康WATCH

A4用紙1枚程度で示す、くすりや健康について調べた記録

肺がんの薬物療法について調べてみた(3):免疫チェックポイント阻害薬

肺がん症状の息切れ・呼吸困難イメージ

肺がんの薬物療法には、化学療法、分子標的薬、がん免疫療法があり、これまでの2回で化学療法および分子標的薬をみてきました。今回は、がん免疫療法のうち免疫チェックポイント阻害薬、特に免疫チェックポイント分子PD-1(programmed death-1)が関与する薬剤に着目してみていきます。

肺がん治療に用いられる免疫チェックポイント阻害薬

免疫チェックポイントとは

ヒトの体では、ウイルス等の病原体やがん細胞等の異常細胞を認識・排除する生体の恒常性維持機構の一つとして、免疫機構が発達しています。しかしながら、何らかの原因で免疫が過剰に活性化すると、正常な自己組織に対しても攻撃を加え、自己免疫疾患を引き起こします。このような過剰な免疫反応を抑制し、自己免疫疾患等の発生を抑える仕組みとして、免疫チェックポイントがあります。

現在までに様々な免疫チェックポイント分子が見つかっていますが、特に研究が進んでいるものに樹状細胞等の抗原提示細胞の受容体 CD80/86 に応答する CTLA-4、がん細胞表面の PD-L1 リガンドに応答する PD-1 があります。がん細胞上のPD-L1またはPD-L2とT細胞上の免疫チェックポイント分子PD-1が結合すると、活性化したT細胞の働きが抑制されます。これが、がん細胞がいくつかもつ免疫逃避機構の一つです。

免疫チェックポイント阻害薬とは

免疫チェックポイント阻害剤とは、T細胞の活性を抑制するシステムである免疫チェックポイント機構に対する阻害剤です。一例を挙げると、免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブ(オプジーボ)は抗PD-1抗体であり、活性化したT細胞上に発現したPD-1と結合します。がん細胞上のPD-L1またはPD-L2とPD-1との結合を阻害することによりT細胞の免疫抑制が解除され、T細胞ががん細胞の増殖を抑制する仕組みです。

免疫チェックポイント阻害薬の作用イメージ

(a) PD-1の機能:
活性化T細胞の表面に発現するPD-1とがん細胞に発現するPD-L1あるいはPD-L2との相互作用により、活性化T細胞はPD-1シグナルを介し抑制される。

(b) 抗PD-1抗体の作用:
活性化T細胞に発現するPD-1と抗PD-1抗体とが結合することにより、PD-1とPD-L1あるいはPD-L2との相互作用は阻害され、PD-1シグナルによるT細胞の抑制が解除される。

図および説明:がん免疫療法:基礎研究から臨床応用にむけてから

現在開発中(承認済みを含む)の免疫チェックポイント阻害薬には以下のものがあります。

分類 一般名(ブランド名)
抗CTLA-4抗体 イピリムマブ(ヤーボイ)
トレメリムマブ(未定)
抗PD-1抗体 ニボルマブ(オプジーボ)
ペムブロリズマブ(キイトルーダ)
抗PD-L1抗体 アテゾリズマブ(Tecentriq)
デュルバルマブ(Imfinzi)
アベルマブ(Bavencio)

なお、勝手ながら、ここからは抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体について書きます。

肺がん治療に用いられる免疫チェックポイント阻害薬

現在、わが国で肺がんの適応を取得している免疫チェックポイント阻害薬は、ニボルマブ(オプジーボ)およびペムブロリズマブ(キイトルーダ)の2剤です。添付文書の効能効果には以下のように書かれています。

・ オプジーボ:切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌
・ キイトルーダ:PD-L1 陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌

肺がん患者を対象とした免疫チェックポイント阻害薬の臨床試験結果

ニボルマブ
ニボルマブは、わが国でもアメリカでも化学療法の治療歴がある切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんの治療(つまり、セカンドライン治療)の効能効果で承認を取得しています。海外第3相試験において、ニボルマブvsドセタキセルはOS(中間値) 12.19 vs 9.36ヵ月と、ニボルマブ群でOSの有意な延長が確認されています。しかしながら、ニボルマブのファーストライン治療の可能性を検討したCheckMate-026試験では、ニボルマブvs化学療法はPFS 4.2 vs 5.9ヵ月、OS 14.4 vs 13.2ヵ月と、化学療法に対する優位性を示すことができず、試験は失敗となりました。

ペムブロリズマブ
EGFR変異やALK転座がなく、PD-L1陽性細胞が50%以上のⅣ期非小細胞肺がん患者を対象とした試験の中間解析結果において、ペムブロリズマブvs 化学療法はPFS(中央値)10.3 vs 6.0ヵ月、2年生存率は80.2 vs 72.4%、ORR 69 vs 42%という結果が得られています。また、ペメトレキセド+カルボプラチンとペムブロリズマブとの併用療法について、PD-L1陽性率に関係なく肺がんのファーストライン治療として用いることが2017年5月にFDAに承認されました。

余談ですが、ペムブロリズマブは、ある特異的遺伝子(MSI-HまたはdMMR)を有する切除不能または転移性の固形がんについては、癌腫にこだわらず処方できると5/23にFDAに承認されました。

デュルバルマブ
プラチナ製剤を用いた根治的同時化学放射線療法後に進行が認められなかった切除不可能な局所進行性非小細胞肺がん患者を対象としたデュルバルマブ逐次投与試験(‘PACIFIC試験)において、デュルバルマブ投与群はプラセボ群と比較してPFSを有意に延長したことが公表されています。同試験は、OSを評価するため、継続中です。また、単独療法でのファーストライン治療としての評価も行う第3相MYSTIC試験を継続中であり、結果が待たれます。

なお、アテゾリズマブはセカンドライン治療としてFDAから承認されており、アベルマブは本年中(2017年中)にFDAに承認される見込みです。

肺がん治療に用いられる免疫チェックポイント阻害薬の副作用

免疫チェックポイント阻害薬の副作用としては、胃腸障害、肝障害、肺臓炎、皮膚障害、神経障害、内分泌障害などがあることが知られています。化学療法と比べて発現頻度が低く、軽微なものが多いとされる一方で、自己免疫疾患関連副作用(irAE)として時に重篤な間質性肺炎、甲状腺機能異常、劇症 I型糖尿病、自己免疫性腸炎、重症筋無力症などの発現報告があり、注意が必要とされています。

さいごに

以上、A4サイズに治まる程度での免疫チェックポイント阻害薬の勉強まとめでした。
A4サイズと制限を設けていることから、専門用語等について説明が不十分な個所がありますが、ご容赦ください。
いずれ、免疫チェックポイント阻害薬については、より詳しくみていきたいと思います。

A4版は下のリンクから。PDFファイルが開きます。
肺がんの薬物療法について調べてみた(3):免疫チェックポイント阻害薬

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    私は、薬剤師の資格を持つ元製薬会社社員。退職後は医学論文の素案作成、そして資格や経歴と無関係の仕事を主にしてます。
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