元製薬会社社員のひとりごと

[第1回]治験ボランティア

くすりに関することについて、思いついたことを思うままに書きます。

「治験ボランティアやりたいんだけど。楽にお金稼げるでしょ」

一時期ですが、友人からよく尋ねられました。健常人向けの治験ボランティアです。お店や家庭教師で働くように体力や頭を使わないから"楽"だと友人が考えたことは想像に難しくないですし、医薬品開発においてPK/PD試験は必須なので治験ボランティアは必要です。ただし、"楽にお金を稼げる"という安易な発想はどうかなと思います。

イギリスで2006年に起きた治験の事故についてご存じでしょうか。第1相試験に参加した健常成人に対して治験薬(抗体医薬でした)を投与したところ、6名に重篤な副作用が発現してIUCで集中治療を受ける事態に至りました。数十万円の報酬のため、命を失う可能性だってあったのです。この治験は製薬企業がCRO(開発業務受託機関)に外注して実施されたものですが、後の検証から、治験準備や実施には問題がなかったと報告されたと記憶しています。

日本で実施する第1相試験では、ほとんどすべての治験薬は外国ですでにヒトに投与された後であり、ヒトに対する毒性(副作用)情報があるのでイギリスの治験のような問題が生じる可能性は極めて低いと思いますが、それでも、体の中に未知の化学物質やタンパク質を入れるのですから、何が起こるかわかりません(だからこそ、初めに第1相試験として少数のヒトに投与して毒性情報を得るのです)。

治験ボランティアをしたいという友人に対して、私は「同意説明文書をよく読み、治験の内容を理解し、自分の責任で参加すること」と伝えました。同意説明文書には、ヒトに対して想定されるリスクが記載されており、また、必ず口頭で説明があります。必要なら質問して理解すべきです。

医薬品の開発は、第1相~第3相と段階を踏んでヒトへの投与を行い、その結果をまとめて承認申請します(抗癌剤の場合はちょっと違います)。第1相試験の主な目的は、安全性の確認(毒性、副作用の確認)と薬物の体内での動き(薬物動態)を知ることです。薬物が体内に吸収されるまでの時間や吸収された量、そして排出までに要する時間などを調べます。言い換えれば、これら情報がない薬剤を体内に入れる"大変"な仕事です。

私はちょっと古い人なので、新人の頃ですが、社員が参加した治験の監督をしたことがあります(今はダメです。今は、社内の人間の参加は許されません)。業務に支障がないよう週末ばかり4週連続でウン十万円もらっていました。食べて、寝て、マンガ読んで...、起こされ、呼ばれ、採決され...。その繰り返しです。治験薬を注射され、「痛いけど、会社を思うと痛いと言えない」などと訳のわからないことを言っている先輩社員もいました(実際に感じた症状なので正直に申告していただきました)。

書いているうちに懐かしいことを思い出して脱線してしまいましたが、医薬品の開発において第1相試験は必須であり、治験ボランティアがいなければ第1相試験を実施することはできません。その一方で、治験薬の投を受ける治験ボランティアにはリスクがあることだけは必ず承知しておいてほしいと思っています。

拙い文章をここまで読んでくださった方の中で治験ボランティアに参加される方がおられれば、私が友人に伝えたように、治験の内容をよく理解された上で参加されることを改めてお勧めします。

抗癌剤の第1相試験や治験については、次回以降の気が向いたときに書きます。

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