元製薬会社社員のひとりごと

[第3回]がんの生存率

くすりに関することについて、思いついたことを思うままに書きます。

2012/10/23の朝刊で「がん生存率、新システムで公開スタート」の記事を見つけました。がんの生存率は、くすりの効果のみを反映したものではありませんが、私事ながら以前に抗癌剤の臨床試験実施に携わっていたことから関心があり、ちょっと調べてみました。

全がん協加盟施設におけるがん専門診療施設の生存率は、下記リンクから参照できます。さらに、加盟施設のほとんどの施設における生存率も参照できます。注意事項ですが、進行した患者さんの受診が多いと生存率が下がります。例えば「評判の良い先生がいる」と末期がん患者が多く来院した場合など、どうしても生存率が下がってしまいます。生存率の数字は参考程度にお考えください。

全がん協生存率2001~2003年全症例(全がん協加盟施設の生存率共同調査)

また、これまでに集めた24万例にもなる患者さんのデータを基に、30種類以上のがんについて、年齢や性別、進行度を入力すると、5年後までの平均的な生存率が分かるシステムが新たに公開されました。全がん協HP(全がん協生存率調査 => 全施設生存率(KapWeb)で参照できます。ここにもURLを貼り付けておきます。

全がん協会加盟施設の生存率共同調査〜全がん生存率(KapWeb)

PC上で見られる画面としては、以下のようなものです。このシステムにより得たがん情報で一喜一憂するのではなく、治療方針などについて患者さんが医師話しをする際の資料に役立ててほしいという願いがあるようです。


ここまでは新聞を始めとする報道と同様の内容ですが、追加してちょっと考えてみました。下は全がん協加盟施設における肝臓がんの5年生存率です。T~Wは進行度を示しものですが、進行するほど5年生存率が低いことが分かります。

下の図は、2005年に発表された論文Staging systems in hepatocellular carcinoma掲載されている治療方針を示す図です。進行度の指標が異なるので一見分かりにくいですが、進行度が低ければ5年生存率が50-70%、少し進行すると3年生存率が20-40%のように進行するほど生存率が低くなるメッセージは同じです。


上の図をよく見ると「New Agents」と書かれている場所があります。医薬品を用いた治療はここに該当します。肝臓がんの治療薬として最初に発売されたネクサバールの使用は、この治療方針図に従うと「New Agentw」に該当する患者さんになります(発売当時、バイエル薬品はここに「Nexavar」と入れた図を学会発表で使用していました)。

ネクサバールの臨床試験では、主に欧米人を対象としたSHARP試験の生存期間が10.7ヵ月(プラセボは7.9ヵ月)、主にアジア人を対象としたAsia-Pacific試験では6.5ヵ月(4.2ヵ月)でした。つまり、試験結果は生存期間を数ヵ月間延長...。単純に生存期間だけ考えると、「New Agents」に該当する患者さんにとっては厳しい結果といえると思います。すなわち、(ここでくすりの話につなげますが)肝臓がんの治療において、医薬品は生存期間(生存率)の著しい改善に現状では貢献できていないと管理人個人の意見として思います。

最後に誤解があるといけないので書きますが、生存期間の延長をしてくれることは、少しでも長生きして欲しいと願う患者さん家族にとってとても大切なことです。管理人は、生存率や生存期間をもっと改善する薬を開発して欲しいという願いを込めた激励のつもりであることを最後に記して終わりにします。

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