くすりに関する配信ニュースを読む

2012年10月~の配信記事から

製薬業界の海外配信ニュースを中心として管理人が学んだこと、感じたことなど不定期にまとめたものです。(ニュースの翻訳ではないです)

Solanezumabは脳内ベータアミロイドを減少させる [2012/10/30管理人記載]

Solanezumabの第V相試験において、アルツハイマー病の主要原因であると考えられているベータアミロイドの血中濃度が上昇していることから、狙い通りベータアミロイドを脳から取り除いたことが示唆されました。この試験では、軽度から中等度のアルツハイマー病患者において進行を有意に抑えることができなかったものの、第V相試験2試験を合わせた解析から軽度の患者における効果を示唆する結果が得られていました。

情報源:Lilly trials boost amyloid link to Alzheimer's-analysis

治療を受けると破産する? [2012/10/30管理人記載]

転移性乳癌の治療薬として、perjetaが今年FDAに承認されました。Perjetaは病勢進行を6ヵ月間遅らせることが期待されますが、perjetaが適応となる乳癌患者の誰もが払える治療費ではなさそうです。

Perjetaは、Herceptinの作用機序であるHER2受容体を含むHER受容体を阻害しますが、Herceptinの競合薬ではなくHerceptinと併用します(それぞれHER2受容体の異なる部位に結合するため)。このことは、Perjetaの治療を受けるためには、PerjetaとHerceptinの薬剤費を負担することを意味します。

Herceptinの治療費は18ヵ月間でUS$80,000かかりますが、Perjetaは少し高くUS$100,000になります。つまり、2剤合わせた治療費はUS$200,000にもなります。病勢進行が6ヵ月間延び、生存期間が6ヵ月間延びると単純に仮定して、さらに治療費が嵩んできます。

他国、イギリスでは薬剤費の支払いは医療経済の側面から制限されます。上限額を超えた費用は自己負担となります。厳しい現実ですが米国は他人事ではありません---高価なの新薬を負担するために高い税金と医療保険を支払うか、上限を設けるか。

情報源:Exciting New Breast Cancer Drug Poised to Break the Bank?

関連情報:FDAはHER2陽性転移性乳がんの治療薬としてPerjeta(pertuzumab)を承認(中外製薬)

Dulaglutideは既存の糖尿病治療薬より効果が高い [2012/10/24管理人記載]

Dulaglutide(Lilly)の週1回投与は、第V相試験において、Byetta 2回/日の6ヵ月投与、Metforminの26週間投与およびJanuvia 1回/日の1年投与よりもHbA1c値を減少させました。DulaglutideはGLP-1アゴニストであり、Victozaと同じ作用機序です。これら3試験に共有した有害事象は胃腸障害でした。Lillyは2013年中の承認取得を目標としています。

情報源:Lilly's dulaglutide tops 3 diabetes drugs in late-stage trials

食事/運動療法による心血管イベント予防効果は限定的 [2012/10/22管理人記載]

2型糖尿病患者を対象に食事/運動療法が心血管イベントを予防するかどうかを検討する米国の長期、大規模試験は、期待された効果が認められないことから2年早く終了することになりました。これまで実施されてきた短期試験では、食事/運動療法は予防効果があることを示唆してきました。

この大規模試験では、5,145例の過体重または肥満した糖尿病患者を食事/運動療法群または健康管理の講習会参加のいずれかに無作為に割り付け、食事/運動療法群に割り付けられた体重250ポンド未満の患者は1200~1,500cal/日、体重250ポンド以上の患者は1,500~1,800cal/日のカロリー摂取とし、中程度の運動を週に175分以上行うとするものでした。

試験開始11年後の検討において、両群の心臓発作、卒中、心血管死の発現が同等であることが判明しました。結果は近いうちに論文公表されます(が詳細は今のところ不明です)。

食事/運動療法群では、参加時体重の約5%の減量と維持に成功していました。減量と体重維持に成功しましたが、それに伴いイベント発現が減少するという結果が得られませんでした。理由として、禁煙、スタチン投与、降圧剤投与の効果が食事/運動療法の効果を隠してしまったことが考えられます。食事/運動療法群の医薬品使用は少ない結果が得られており、生活改善と少量の医薬品により、"高価"な医薬品を服用したと同等の効果が得られることは重要と考える研究者もいるようです。

情報源:Diabetes Study Ends Early With a Surprising Result

心臓発作の予防〜薬より手術の方が有効 [2012/10/22管理人記載]

胃の縮小手術や胃バンディング術は医薬品と比べて劇的に心臓発作のリスクを軽減することが分かりました。こ計73試験に参加した計20,000例に及ぶ高血圧、糖尿病、高脂血症患者の半数以上で著しい改善または完治が認められました。短期間の投与で同様の効果を認める医薬品は存在しません。

一方、手術には感染症、出血、胆石症、栄養欠乏症、そして重い場合は死のリスクを伴います。患者は、手術によりすぐに良くなると考えがちですが、リスクを正しく理解することが大切です。

[管理人ひとりごと:この手術の話は1ヵ月くらい前にTVで見ました。その番組は、手術がテーマではなく、低炭水化物食事療法によりHbA1cを改善するというものでした。このTVについても、医薬品の服用を必要としなくなるという点では一致しています。なお、食事療法については、すぐ上に示すような記事もあります。低炭水化物食事療法ではないと思いますが...。]

情報源:Weight-Loss Surgery Cuts Heart Risk More Than Drugs

Coca-ColaとSanofiが共同で健康飲料のベンチャー設立 [2012/10/18管理人記載]

Coca-ColaとSanofiはジョイントベンチャーを立ち上げ、フランスの薬局で試験的に美を追求する健康飲料(商品名:Oenobiol)を発売します。今回発売する健康飲料は4種類ありますが、それぞれ、頭髪、減量、日焼け、一般的な活力剤を念頭に置いた商品です。ターゲットは、都会暮らしの25~45歳の女性として、価格は2~3ユーロになる見込みです。これから1ヵ月以内に発売される予定です。

Coca-Colaの主力事業の飲料は肥満率増加につながると風当りが強く、Sanofiは医薬品以外の商品を作り多角化を図ろうとしており、両社の思惑が一致してのベンチャー設立となりました。

情報源:Coca-Cola, Sanofi Form Pilot Venture to Test ‘Beauty Drink’

小さな会社から糖尿病治療のブロックバスター薬が生まれるかも [2012/10/17管理人記載]

Lexicon PharmaceuticalsのLX4211はSGLT阻害剤ですが、他社のSGLT阻害剤すなわちdapaglifozin(BMS、AZ)やcanaglifozin(J&J)がSGLT-2しか阻害しないところ、LX4211はSGLT-1とSGLT-2の両方を阻害する作用があります。SGLT-1(小腸(腸管上皮)と腎臓に発現)は消化管において糖再吸収を阻害し、SGLT-2は腎臓において糖再吸収を阻害します。LX4211は、糖の再吸収を阻害することにより食後血糖値を改善し、さらにGLP-1放出を促すと考えられています。

LX4211とメトホルミンの併用効果をみた臨床第Ub試験において、LX4211 400mg 1日1回投与はHbA1cを0.86%低下しました。なお、dapaglifozinおよびcanaglifozinの第V相試験では、HbA1cをそれぞれ0.67%、0.7%低下させた結果が得られています。

情報源:Lexicon Pharma: Blockbuster Potential From A Diabetes Drug

バイオ医薬品が売上上位医薬品の常連に [2012/10/11管理人記載]

低分子のブロックバスター医薬品が特許切れにより売上減少となるに伴い、バイオ医薬品が売上トップ15位以内にならび、2012年の(現在までの)売上第1位はHumiraとなりました。売上トップ15位までの医薬品は次のとおりです。

1位:Humira、2位:Enbrel、3位:Advair/Seretide、4位:Remicade、5位:Rituxan、6位:Crestor、7位:Lantus、8位:Herceptin、9位:Avastin、10位:Lipitor、11位:Abilify、12位:Plavix、13位:Cymbalta、14位:Gleevec、15位:Spiriva

情報源:The 15 best-selling drugs of 2012

アルツハイマー病の予防薬開発に挑戦 [2012/10/11管理人記載]

LillyとRocheは、アルツハイマー病の予防効果を検討する長期試験を実施します。この試験が成功した場合、家族性アルツハイマーの予防に大きく寄与します。この試験の対象患者は、遺伝子変異が明らかで早ければ30代で発症する可能性があり、発症してしまうと治療選択肢のない160例です。なお、Lilyのsolanezumaは、アルツハイマー型認知症患者を対象とした試験の結果、軽度の患者に対しては進行抑制効果を示す一方、進行した患者に対する効果を認めませんでした。

[管理人の独り言] 軽度から中等度のアルツハイマー型認知症患者を対象とした国際共同試験2試験の結果、試験の併合データでの部分集団解析では、軽度のアルツハイマー型認知症の患者群において統計学的に有意な認知機能低下の進行抑制が示されたが、中等度患者群では示されなかったことが本年8月にプレスリリースされています。これを「予防投与の試験」につなげる発想力と長期試験を行う体力(資金力)があるところが大企業らしいと感じます。

情報源:Lilly, Roche Drugs Chosen for Alzheimer Prevention Trial

関連情報:Lilly And Its Alzheimer’s Drug: Hope Or Hype?

関連情報:Lilly drug may slow memory loss in mild Alzheimer's

医薬品の本当の有効期限は? [2012/10/9管理人記載]

有効期限から28~40年経過した医薬品15剤のうち標準の溶出試験法の見つからない1剤を除く14剤について有効成分含有量を測定したところ、12剤について90%以上の含有率を示しました。言い換えれば、有効性が十分に期待できる用量の有効成分を含むことが確認されました。

情報源:Many drugs are just fine years after they 'expire,' study finds

 くすりの勉強について

周囲の親しい複数の知人たちが様々な病気を患っています。知人たちの病気を治す治療薬について情報を得たいと考え、細々と勉強を始めました。このため、私の勉強の中心は現在汎用されている薬に加え、臨床試験段階にある薬が中心です。

くすりに関する専門家向けまたは一般向けの情報は下記の類の本に委ね、私はネット経由で日々発信される最新情報を求めていきます。

今日の治療薬2012

くすりの事典―病院からもらった薬がよくわかる〈2012年版〉

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