肺がんの薬物療法について調べてみた(1):化学療法(細胞傷害性抗がん剤)
肺がんとは
肺がんは肺に発生する悪性腫瘍であり、我が国のがんによる死亡原因の1位(2014年)です。肺がんの主な原因は喫煙であり、喫煙者の肺がん発症リスクは男性で4.8倍にもなります。肺がんには小細胞肺がんと非小細胞肺がんがあり、肺がんの約80%が非小細胞肺がんです。
肺がんの症状には、咳嗽,喀痰、血痰、胸痛などがありますが、これらの症状は他の呼吸器疾患でもみられ、肺がんに特徴的な症状ではありません。呼吸器症状により発見された場合、無症状のまま健診などで発見された場合に比べて進行していることが多く、予後が悪い場合が多いです。
肺がんに対する薬物療法
肺がんの治療方針は、分類(小細胞肺がん、非小細胞肺がん)、組織型(扁平上皮がん 、非扁平上皮がん:大腺がん、細胞がんなど)、遺伝子変異の有無(EGFR遺伝子変異、ALK遺伝子転座)、全身状態(ECOG)および病期(0期、I期(IA、IB)、II期(IIA、IIB)、III期(IIIA、IIIB)、IV期に分類)によって異なります。下図は、IV期非小細胞肺がんの薬物治療の樹形図の一例です。(図:EBMの手法による肺癌診療ガイドラインから)
肺がんの治療には、主に外科療法(手術)、放射線療法および薬物療法があり、これらを単独または併用して治療します。薬物療法とは、すなわち抗がん剤による治療のことであり、抗がん剤の注射または内服により、がんを縮小させることを目的とした全身療法のことです。抗がん剤は、作用の仕組みによっていくつかの種類に分類されます。ここでは、主に、III期(IIIA、IIIB)、IV期の非小細胞肺がんに用いられる抗がん剤として、化学療法(細胞傷害性抗がん剤)、分子標的薬、がん免疫療法の特徴をみていきます。
肺がん治療に用いられる化学療法
肺がん治療に用いられる化学療法の種類
化学療法は、活発に分裂・増殖するがん細胞のDNA合成と細胞周期(分裂した細胞が再び細胞分裂するまでの過程)に対して作用し、細胞分裂を阻害することにより、がん細胞を殺傷します。化学療法には、このような細胞傷害性作用を有する薬剤の他にアポトーシス(プログラム化された細胞死)を誘導する薬剤もあります。
肺がんに用いられる主な化学療法には以下のものがあります。肺がんの治療では、主に、プラチナ製剤(シスプラチンまたはカルボプラチン)に他の抗がん剤のいずれかを併用したプラチナ併用療法が用いられます。
プラチナ製剤(白金製剤)
DNAの二重らせん構造に結合してDNA合成を阻害し、がん細胞の分裂を阻害する。さらに、アポトーシスを誘引して細胞傷害作用を示す。細胞周期に関わらず作用し、副作用が強い。
代謝拮抗薬
核酸の材料となる葉酸の利用を阻害する葉酸拮抗剤のように、がん細胞の分裂・増殖において、核酸の材料となる代謝物質と構造が類似している物質がDNAの合成を妨げ、がん細胞の増殖を抑制する。
微小管作用薬(微小管阻害薬)
がん細胞の分裂において、複製したDNAを2つに分裂する際に元の染色体と新しい染色体を引き離す役割をもつ紡錘糸(微小管)の働きを阻害し、細胞分裂を阻害して抗腫瘍効果を示す。
図:Introduction to the Cell Cycleの掲載図を改変
化学療法の種類 | 一般名(ブランド名) |
---|---|
プラチナ製剤 | シスプラチン(ブリプラチン、等) カルボプラチン(パラプラチン) |
代謝拮抗剤 | ペメトレキセド(アリムタ) ゲムシタビン(ジェムザール) |
微小管作用薬 | パクリタキセル(タキソール、等) ドセタキセル(タキソテール、等) ビノレルビン(ナベルビン) イリノテカン(トポテシン、カンプト) |
その他 | ティーエスワン(テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウムの配合剤) |
肺がん治療に用いられる化学療法の効果(紙面(A4)の都合上、ほんの一例)
下表は、IV期または IIIB期の患者にシスプラチン併用療法を比較した日本の試験(Y. Oheら 2007)です。
投与群 | 奏効率(%) | 生存期間(中央値;月) | 1年生存率(%) | 2年生存率(%) |
---|---|---|---|---|
シスプラチン+イリノテカン | 31.0 | 13.9 | 59.2 | 26.5 |
シスプラチン+パクリタキセル | 32.4 | 12.3 | 51.0 | 25.5 |
シスプラチン+ゲムシタビン | 30.1 | 14.0 | 59.6 | 31.5 |
シスプラチン+ビノレルビン | 33.1 | 11.4 | 48.3 | 21.4 |
また、日本肺癌学会の肺癌診療ガイドラインには、Ⅳ期非小細胞肺がんの治療において、化学療法が緩和治療に対して有意に生存に寄与していることがメタアナリシスによって示されています。これは1年生存率にして9%の改善、約1.5カ月の生存期間延長に値することが記されています。
肺がん治療に用いられる化学療法の副作用
化学療法による副作用は、くすりの種類、投与量や投与期間によって異なります。また、個人差も大きいです。化学療法はがん細胞だけを狙い撃ちせず正常な細胞にも作用することから、副作用は細胞周期の早い細胞で特に認められます(自覚的には脱毛が一例。他覚的には骨髄抑制の報告が多い)。
主な副作用には、自覚的なもので悪心・嘔吐、食欲不振、口内炎等、他覚的なものでは骨髄抑制による白血球減少、貧血、血小板減少等があります。白血球が減少した場合、感染症を防ぐ目的で白血球増殖因子(G-CSF)を投与することがあります。重度の副作用が認められた場合、抗がん剤の減量や投与中止をすることがあります。
さいごに
以上、A4サイズに治まる程度での肺がんの薬物療法(化学療法)の勉強まとめでした。
A4サイズと制限を設けていることから、専門用語等について説明が不十分な個所がありますが、ご容赦ください。
いずれ、「がん」や「抗がん剤」に関する一般的なこと(例えば、PFS説明や抗がん剤の投与方法など)について書きたいと思います。
A4版は下のリンクから。PDFファイルが開きます。
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