くすり&健康WATCH

A4用紙1枚程度で示す、くすりや健康について調べた記録

OTC医薬品に関する何故?を調べてみた1 –鎮痛薬と高血圧-

私の何故イメージ

今回の私の「何故?」— イブクイック頭痛薬DX、ロキソニンS

最初にお断りしておきますが、今回の調査では「結論」を導き出す根拠を見つけ出せていません。私の推察で終わっています。どのように考えるかは、推察にたどり着くまでの情報から、ご自身でご判断ください。

私の「何故?」その1
1回投与量がイブプロフェン200mgの「ナロンメディカル」や「リングルアイビー」は、治療中の高血圧症患者の服用が禁忌となっている。一方、「イブクイック頭痛薬DX」は1回あたり同量(200mg)のイブプロフェンを含有しながら、添付文書の禁忌(してはいけないこと)にも慎重(服用前の相談)にも高血圧の記載がない。

私の「何故?」その2
「ナロンメディカル」や「リングルアイビー」は治療中の高血圧症患者の服用が禁忌となっているが、ロキソプロフェンを消炎鎮痛成分とするロキソニンSの添付文書では、禁忌(してはいけないこと)にも慎重(服用前の相談)にも高血圧の記載がない。

NSAIDsの薬理作用

アラキドン酸カスケードで、アラキドン酸が酵素の一つであるシクロオキシゲナーゼ(COX)によって代謝されるとプロスタグランジンが生成されます。このプロスタグランジンの血管拡張や疼痛過敏(疼痛閾値の低下)作用により痛みが生じ、プロスタグランジンが体温調節中枢の視床下部に作用すると体温上昇が起こります。イブプロフェンやロキソプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は、シクロオキシゲナーゼ(COX)の働きを阻害してプロスタグランジンの生成を抑制することにより、解熱鎮痛作用を示します。

このシクロオキシゲナーゼ(COX)にはCOX-1とCOX-2の2つのアイソザイムが存在します(COX3についてここでは触れません)。COX-1は正常細胞や組織に定常的に発現し、胃粘膜保護や血小板凝集などの生理機能の維持に関与しています。一方、COX-2は腎臓や脳など特定の領域では定常的に発現していますが、サイトカインや炎症メディエーターなどの刺激により誘導され、血管透過性亢進、血管拡張および発痛に関与するにPGE2やPGI2等の産生を亢進します。

NSAIDsはCOXの働きを阻害しますが、その種類によってCOX-1およびCOX-2に対する選択性が異なり、この選択性の差が有効性や安全性の差、つまりNSAIDsの特徴の一つにもなっています。

NSAID のCOX選択性
(図:Cardiovascular Risk Associated With NSAIDs and COX-2 Inhibitors – US Pharmacist)

例えば、COX-2選択性が高いセレコキシブは、胃腸に対する安全性が高いことで知られていますが、セレコキシブと同時期に承認・発売されたロフェコキシブは心血管合併症の発症リスク増大の懸念のため、回収騒ぎとなったことを記憶している方が多いかもしれません。一方、アスピリンNSAIDsの中でもCOX-1選択性が高く、胃腸障害を来たしやすいとされています。

NSAIDsの血圧に対する影響

イブプロフェンが治療中の高血圧患者に禁忌となっている理由は、「プロスタグランジン合成阻害作用による水・ナトリウム貯留傾向があるため、血圧を更に上昇させる恐れがある」からです(医療用添付文書から)。

プロスタグランジン(この場合PGE2)は腎臓において、腎血流量の増大および糸球体濾過率の上昇、Na+および水の再吸収抑制、抗利尿ホルモン(バソプレッシン)と拮抗して水の再吸収抑制の役割があります。簡単に書くと、腎臓において水の排泄を促す働きがあります。

腎臓は最も豊富にPGE2を産生している臓器ですが、NSAIDsによりPEG2合成の深く関係のあるCOX-2の働きが阻害されると、腎血流量が減少し、水再吸収抑制により尿量が減少します。「水・ナトリウム貯留傾向」となり、腎機能に影響を及ぼし、血圧上昇や浮腫が起こりやすくなります。

私の「何故?」に関して考えたこと

私の「何故?」その2

セレコキシブの審査報告書に、セレコキシブ、インドメタシン、ジクロフェナク、ロキソプロフェン活性代謝物、イブプロフェンおよびナプロキセンの IC50値の COX-1/COX-2 比は、それぞれ31、0.11、0.60、0.014、0.66および0.13との結果があります。

この結果から、ロキソプロフェンと比べて、イブプロフェンの方がCOX-2阻害作用が強く、血圧に対する影響が少し大きい可能性が考えられそうです。この僅かな差(および臨床試験結果?)が添付文書での注意書き有無にも関係してきたのかなという推察です。(注:ロキソプロフェンの方がCOX-2阻害作用が強いというまとめもネット上にありましたが、出典を確認できなかったため、この推察を書きました)

ロキソプロフェンの添付文書(医療用)に、利尿薬や降圧剤との併用注意とあります。理由として「腎におけるプロスタグランジン生合成抑制作用により、水、ナトリウムの排泄を減少」とあることから、ロキソプロフェンに血圧の影響がないのではなく、COX-2も阻害するNSAIDsはすべて血圧への影響があると考えることが無難なのでしょう。

私の「何故?」その1

「ナロンメディカル」および「リングルアイビー」と「イブクイック頭痛薬DX」の件は、ネットで審査報告書などの理由が記載されているであろう文書が見つかりませんでした。この3剤を比べて1つ気が付くことは、前者2剤が1日最大用量が600mg(1日最大3回の服用可能)であり、後者の1日最大用量が400mg(1日2回を限度)となっていることです。用量が多い600mgまでを継続的に服用する可能性を考えてのことなのか。

お断り

今回の「何故?」については、メーカーに問い合わせすれば簡単に回答が得られるのでしょうが、(1日で)調べた範囲で考えたことのまとめでした。追加情報を見つけたら、更新や修正しますので悪しからず。

毎度のことですが、限られた時間で調べた限られた情報に基づくまとめであり、この限られた情報をベースに考えた個人の感想であるとご理解ください。実際ところは、薬剤師等の専門家にご相談くださいませ。

さいごに

以上、A4サイズに治まる程度での「OTC医薬品に関する何故?を調べてみた1 –鎮痛薬と高血圧-」でした。

A4版は下のリンクから。PDFファイルが開きます。
OTC医薬品に関する何故?を調べてみた1 –鎮痛薬と高血圧-

  • 管理人はこんな人

    こんにちは。
    私は、薬剤師の資格を持つ元製薬会社社員。退職後は医学論文の素案作成、そして資格や経歴と無関係の仕事を主にしてます。
    知人から薬について相談されたことをきっかけに、一般用医薬品や健康食品について勉強を始めたところです。
    「くすり&健康WATCH」は、勉強した内容、そして考えたことをA4用紙1枚程度に書き出した、いわば個人メモです。個人メモですが、どなたかの役に立つことを願って...。
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