山あるきの計画(ちょっぴり本格的)

しっかりとした計画を立て、山行の実現性と安全性を確認しよう。

西丹沢で17人一時遭難 登山計画書提出なく

山北町の丹沢湖に近い大杉山(861m)で31日、日帰り予定の中高年17人のグループが道に迷い、うっすら雪が残る山中で一晩過ごした。グループは県内と東京都内に住む55〜69歳の男女。同町玄倉から入山、大杉山を越えて中川温泉に下山中、道に迷い31日夕に携帯電話で救助を求めた。同署員が1日午前3時ごろ、樹林の下にかたまっていた17人を発見した。

同署によると、今回のルートは一般向きではなく、初心者はいなかった。同じルートを歩いた経験者がいたことが、過信につながらなかったか調べている。

同署管内の山岳事故は04〜05年に計57件あり、5人が死亡。一般的でないルートの入山が増え、同署は▽単独行は避ける▽十分な装備と天候確認▽携帯電話の携行▽計画書の提出を呼びかけている。

(2006年2月2日 毎日新聞記事から一部抜粋)

山行計画書

上の記事によると、山行計画書が提出されていなかったようです。上の例では携帯電話で救助要請できましたが、場所によっては、携帯電話が通じにくいこともあります。もしも携帯電話が通じずに救助を求めることができなかったら、救助活動は翌朝以降に開始され、また、ルートが特定できないことから遭難地点の特定に時間を要し、救助活動が迅速に行えない可能性があります。その上、遭難者の年齢や人数も分かりません。山行計画書は、このように遭難した場合の救助に役立つ情報を与えてくれます。しかし、山行計画書を準備することにはもっと重要な意味があります。

私が実際に使用した山行計画書(個人情報を削除済み)を山行計画書の作成例として示します。左にあるPDFをクリックください。なお、この山行計画書のフォーマットは、大阪労山の中級登山学校の生徒時代(都合により、途中退学してしまいましたが...)、他の生徒からもらったものです。ですから、このフォーマットでの山行計画書を過去に目にされた方も多いと思います。それはさておき、山行計画書に記載された下表の項目に注目してみましょう。

山域入山する山域を書いておけば、どの山に登るかが一目で分かります。なお、日程およびコースの記載からも山域は分かります。
山行期間・予備日山行はいつからいつまでなのか、予備日は設けているのかが分かります。
日程及びコース山行計画書の作成者は、参加者の技量や経験を考えながら日程およびルートを決定します。例えば、参加者の技量が不足していると考えられる場合、山域やルートの変更、もしくは事前のトレーニングを考える必要があります。技量不足の人がいながら日程およびコースの変更はしたくない場合、技量不足の人の参加を山行計画書作成の段階で断らなければなりません。誰がいつ、どの山に行くかを示すことだけが計画書を作成する目的ではないのです。遭難した場合の手がかりとすることだけが計画書を作成する目的ではないのです。
また、十分に計画しても不測の事態で遭難に至ることもあります。捜索者に日程およびコースが分かれば、遭難した場合に探してもらいやすくなります。
下山予定・救助要請時間入山時、山行計画書は指定のポストに入れます。下山予定の記載があれば、下山予定日を越えても下山しないか判断できます。
山行計画書の作成者は、救助要請時間に多少の余裕を持って記載しておきます。留守宅で下山報告を受ける人は、救助要請時間を過ぎても連絡が入らない場合に捜索願いを出します。山行中、遭難者本人が携帯電話等で救助要請したくとも、山の中では携帯電話の電波の届かない場所がいくらでもあります。
参加者参加者の性別、年齢は遭難した場合の捜索において有力な手がかりとなります。また、山行計画の作成者(および承認者)は、参加者の経験と入山する山域から実力に見合った山行かどうか判断する必要があります。
共同装備・個人装備パーティとして持参する共同装備とその装備の責任者、さらに個人が持参すべき装備を記載することにより、装備漏れを防ぎます。なお、遭難時には、テントやツエルトがあるか、非常食があるかといった情報も捜索期間の決定において考慮されます。
エスケープルート山行中、天候の変化や怪我などの思わぬ事態により、予定を変更して下山しなければならないことがあります。入山地点から遥か離れた場合、どの経路が最も下山路として適しているか予め考え、山行計画書に書き入れます。遭難時の捜索の助けになることもあります。
事故時の連絡先遭難救助が必要となった場合、携帯電話が普及した今では遭難者本人が最寄の警察に連絡して救助依頼することが多いかもしれませんが、山の会では特に夏山や冬山の時期には遭難対策本部を設置し、自らも遭難にあたります。身内への遭難の連絡先です。
トレーニング参加メンバーや山域に応じて、実際の山行のはるか前から合同でトレーニングを行う場合があります。各参加者の力量を見極める参考となりますし、参加者の力量が山行までに十分でないと判断される場合には、山域を変更するかその方を不参加とする必要があります。山では一人の準備不足がパーティ全体を遭難の危機に陥れることがあるからです。
受付・承認特に経験の浅い方がリーダーや山行計画書を作成する場合、ベテランの方に山行内容の相談をしてください。山の会では、一般に、山行部長なる人がおり、山行計画書の内容を確認の上、承認できるかどうか判断します。

このページの作成を始めたのは2006年10月の連休中でしたが、海や山の遭難のニュースが流れていました。北アルプスでは吹雪になったようですが、それでも下の記事のように山岳警備隊の忠告を聞かずに軽装備で山に入った人がいるようです。これは言語道断です。このような無責任な行動は慎んで欲しいです。もしも遭難した場合、忠告を無視する登山者であっても山岳警備隊は救助に出向かなければならず、場所によっては命がけです。また、遭難者の家族も心配します。ある登山者の軽率な判断や身勝手な行動による遭難では救助者も家族もやり切れません。くれぐれも、しっかりとした登山計画を立て、十分な装備と準備の上で登山をしてください。

「軽装登山 控えて」相次ぐ北ア遭難に注意喚起

7日に山岳遭難が相次いだ北アルプス。岐阜県側の入り口、高山市奥飛騨温泉郷神坂の新穂高登山指導センター前は、3連休2日目の8日も早朝から多くの登山客でごったがえした。

同センター前ではこの日午前7時前、県警山岳警備隊員が「午前6時現在、稜線上は降雪。冬山装備が必要です。軽装での入山は控えてください」と書かれた張り紙を掲示。登山届を出しかけた登山客の半数ほどは登山を断念したが「天候によっては引き返す」と、予定通り出発する登山者も少なくなかった。アイゼンやテントの準備はしていないという50代の男性2人が、同隊員が止めるのも聞かずに入山していった。

秋山警備の一環として同センターに詰めていた民間の北飛山岳救助隊のメンバーも、登山者に入山の危険性を伝え、装備の確認に追われていた。

(2006年10月9日 中日新聞)

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